第24期日本バイオマテリアル学会会長
九州大学 大学院歯学研究院 教授
石川邦夫
バイオマテリアルは生体内で、あるいは生体に接して用いられる医療材料です。例えば、人工骨、人工関節、人工心臓、歯科インプラント(人工歯根)などがバイオマテリアルです。薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)という法律で定められており、バイオマテリアルは医療機器に分類されています。そして、日本バイオマテリアル学会はその名前の通り、バイオマテリアル研究・開発、産業化のプラットフォームです。
バイオマテリアルは三つの観点から注目されています。一つ目は医療の質の向上に必要不可欠であることです。例えば、「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画」が閣議決定され、法が制定されています。研究開発と普及フェーズが定められており、研究開発の基本方針は、「医療機器の研究開発の中心地としての我が国の地位の確立」です。具体的方針としては、<世界がうらやむ「人材」、「場所」、「資金」、「情報」の充実>とされています。日本バイオマテリアル学会は「資金」以外の項目について貢献いたします。
二つ目は超高齢社会への対応です。ヒトは加齢によって生体機能が衰えてきます。平均寿命と健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)の延伸が喫緊の課題です。バイオマテリアルによって医療の質の向上を図り、それによって健康寿命を延伸する必要があります。
三つ目は成長戦略(日本再興戦略)です。これも閣議決定された事項ですが、戦略市場創造プランのテーマ1が健康寿命の延伸です。「医療機器の世界市場は約8%の成長率を維持している」ことや、「我が国のものづくり企業は医療機器に活かすことができる高い技術を有しているにも関わらず、現状の国内医療機器市場は、貿易収支全体で、輸入超過で推移」していることが指摘されています。
要するに、医療機器は医療の質の向上に必要不可欠であり、超高齢社会を迎えた我が国では特に重要になる。医療の質向上は世界的要請であり、成長戦略の一丁目一番地として医療機器開発を進めようということです。
いかがでしょう?日本バイオマテリアル学会と一緒に、バイオマテリアル研究・開発、産業化を進めませんか?「そんな夢のような領域があるはずないのでは?難しすぎるのでは?」という声があるかもしれません。確かにバイオマテリアル研究開発・産業化は簡単ではありません。一般の材料とは異なり薬機法に縛られます。しかし、日本バイオマテリアル学会にはPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の先生方も所属されています。政府は綿密な分析を行い「「我が国のものづくり企業は医療機器に活かすことができる高い技術を有している」と断定しています。とすれば何がバイオマテリアル研究開発、産業化のネックなのでしょうか。私は人の融合、知識の融合だと感じています。バイオマテリアル研究開発に限らず、研究開発は人・知識の融合によって進みます。ただ、バイオマテリアルは、医療に用いられ、生体に接して用いられるため、より高度な融合が必要です。日本バイオマテリアル学会には医師、歯科医師をはじめとする医療従事者、生物学研究者、材料研究者が所属しており、融合に最適なプラットフォームを提供いたします。
日本バイオマテリアル学会は1978年に設立されてから半世紀を迎えようとしております。私たちは、先人たちが構築したバイオマテリアルに関する歴史・叡智を「継承」し、さらにバイオマテリアル科学とバイオマテリアル産業を「躍進」させ、バイオマテリアル界を「牽引」します。一緒に頑張りましょう!